地域九条の会 合同講演会

09年 音楽と憲法の夕べ

 5つの地域の九条の会(池上九条の会 、大田たまがわ九条の会 、新蒲田九条の会 、東矢口九条の会、田園調布九条の会)は共同して、音楽を楽しむとともに、<憲法九条を生かし、平和と暮らしを守る>講演会を10月7日に下丸子の区民プラザ大ホールで開催しました。
 大型の台風が近づき雨が降る中という悪条件でしたが、354人と多くの方の参加で盛況となりました。

 第一部のミニコンサートでは、「アコルディ弦楽四重奏団」のモーツアルト、ハイドン、シューベルトの曲や、日本の民謡の演奏に聞き入りました。それぞれの曲には解説もあり、よりなじみやすくなりました。

 第二部の講演では、伊藤真さんが、
今こそ活かそう!「憲法の力」  今を生きる私たちの責任
のタイトルで講演を行いました。「憲法の伝道師」らしく、憲法の立憲主義の説明は分かりやすく、これからいかに次の世代に立憲主義を伝えていくかは、今を生きる人間の責任だとの訴えは会場の多くの人の胸に響きました。

 講演の終了後に、賛同署名やカンパの訴えがあり、閉会となりました。賛同署名は、11筆よせられ、カンパは8,170円集まりました。アンケートも72名の方から回答をいただきました。伊藤真氏の著書『中高生のための憲法教室』は33冊、『なりたくない人のための裁判員入門』は22冊売れました。
 雨の中参加いただいたみなさん、ありがとうございました。       (文責:小林)     



写真とアンケート結果はこちら

 

<第1部>ミニコンサート アコルディ弦楽四重奏団

演奏曲:

  1. モーツァルト / ディヴェルティメントより
  2. ハイドン / 弦楽四重奏曲『日の出』より
  3. シューベルト / セレナーデ
  4. かかし / 文部省唱歌
  5. 村祭り / 南能衛
  6. ずいずいずっころばし / わらべうた
  7. J.シュトラウス / トリッチ トラッチ ポルカ

 

 

 

<第2部>講演  伊藤 真  今こそ活かそう!「憲法の力」

講演要旨

*ベトナム・シンガポールでの体験

 先週、台風のさなかを、伊藤塾の研修旅行の下見を兼ねてベトナム、シンガポールに行ってきた。ベトナムでは、中部のダナンで、ベトナム戦争時に韓国軍が村民を虐殺した現場に行き被害者の話しを聴いた。韓国軍はアメリカ軍にいいように使われて、兵士は戦争の道具として加害者にさせられた。戦争は大変なことと感じた。日本も間接的にベトナム戦争に加担したが、それでも9条があるために韓国軍兵士のように殺害、殺戮に加担させられることはなかった。
 そのあと、シンガポールに行った。シンガポールは観光の都市国家、交易都市国家で、1人当たりGDPは日本を抜いてアジアでトップ、という豊かな国だ。その表のシンガポールと裏のシンガポールには、大きな落差がある。この国は民主主義の外形は保っているが、リー・クワンユーのPAPという政党による完全な1党独裁が続いている。経済発展の裏で大変な貧困・格差があり、表現の自由は全くない。政権与党を批判する自由は全くない。民主化・人権運動に携わった人は、32年間も拘束されている。憲法を国民に知ってもらおうと印刷して配ると即捕まってしまい、何年か拘束される。マスコミはすべてリー・クワンユー一族に牛耳られている。人権派弁護士が2人だけいるが、「国民は憲法を知らない」と言う。私は日本でも同じだと言ったが、理解されなかった。

*人間性の尊重が憲法の根底にある

 人が戦争の道具として利用されたり、経済発展のために市民が道具として利用されるこれらの例のように、人間が何らかの目的の手段として使われることは、許されない。シンガポールでは、幼稚園から教育が徹底していて、批判・議論を教えない、従うことのみを教える。そうした自由のない“奴隷の幸せ”ではなく、人間性の尊重、一人一人の主体性を要に憲法は成り立っている。
 私は、できるだけニュートラルに憲法の話しをしているが、人間は戦争してはいけない、その一点だけは譲れないということを前提にお話しをしている。これに対して、「間違った戦争はいけないが、“正しい戦争”だってあるだろう」という反論がある。世界の国々では、こちらの方が多数派だろう。平和実現のための軍隊、戦争が必要との意見に対して、平和は大切、戦争はいけないと叫ぶだけでは、説得力はない。たとえ目的が正しくても、戦争という手段を正当化は出来ない。人間の命を何かの手段にしてはいけない。(このことを明らかにすべきだ。)人間性の尊重が、私たちの憲法の根底にある。
 島本慈子『戦争で死ぬ、ということ』(岩波新書)に、9・11で息子さんを亡くしたお父さんのインタビューが紹介されている。この方は、アフガンへの報復攻撃に対して、報復は暴力の連鎖を生むだけだと答えている。憲法を学ぶ、知るということは、肉親がこういう被害にあったような場合でも、戦争はいけないと言える覚悟を決めることだ。こういう力を付けることが、憲法の力を付けるということだ。憲法がなくても、9条がなくても、戦争はしてはいけないという考えを自分の血肉にできるか、が問われている。誰の命も大切にする、これが9条の、憲法の核心だ。

*教育基本法改悪

 教育基本法が改悪された。一番の問題は、前文と1条が変わってしまったことだ。旧法前文は、憲法の理念の実現と教育を一体化することで教育の目的を実現しようとしているのに対して、今の教育基本法は、前文で教育の目的を、国家を発展させることとしている。そして、1条の「教育の目的」では、国や社会を支える資質を身に付けること、国を支えるために必要な力を蓄えよということになってしまった。ただ、目的が全く違ってしまったが、憲法が変えられない限り、「国や社会を支える資質」の育成を民主主義の担い手としての人間の育成と読み取ることは可能だ。

*憲法改正手続法

 07年5月に憲法改正手続法が成立した。大変なことになると危機感を持った人は多いだろう。しかし、私たちはここ2年半くらいの間に、若い人何人に憲法について伝えただろうか。この法律では18歳から国民投票できるようにしようとなっているが、子供たちが憲法について知ることが大切だ。伝えようとする具体的行動・努力をやり続けないと、改憲の動きが高まった時に、踏ん張れない。自分で主体的に判断できる力、憲法の力を身につけた国民が育っていないといけない。
 民主党のマニフェストでは、憲法改正について、近代立憲主義をきちっと発表している。これは戦後の政党としては初めてだ。国民の議論を汲み上げて、改正議論を進めるなら進めるというスタンスは、正しいと思う。改憲に賛成か反対かよく聞かれるが、改悪には反対だが、改正には賛成だ。例えば、天皇制の条文はなくていい。一切憲法改正は駄目という立場ではない。小泉、安倍政権下で、こういう改正をしようという動きに対して、手続に反対する、改正に反対することは意味があったが、今は状況が違う。ただし、今は憲法に手を付けるべきではないと思っている。その前に、やるべきことがある。この間、市場原理一辺倒だったが、競争と人権の2つの柱のうち、人権の原理にもっと光を当てるべきだ。今の政権は、前の政権より期待できるが、監視し続ける必要がある。

*憲法とは何か

 私たちは法律に従うが、法律が正しいから、民主主義の国で国民主権のもとに出来た法律だからという理由付けがされる。しかし、国民の多数意見は間違うことがある。例えば、ヒトラーは民主主義のルートで政権に就いて、いろいろ悪いことをやった。私たちは、情報操作に惑わされて正しい判断が出来ない可能性がある。小泉さんは、郵政民営化賛成か反対かを訴えた。ヒトラーのマニュアル通りにやって、国民はその通り反応した。残念ながら、人間には民族を超え、時代を超えてそういう弱さがある。その時々の国民の多数意見でも、やってはいけないことがある。それを冷静な時に書き留めたのが、憲法だ。憲法で歯止めをかける、それが立憲主義だ。イギリスで、国王の権力を縛るために憲法は生まれた。今の日本は、民主主義と立憲主義の国だ。民主主義についてはよく触れられるが、立憲主義については余り触れられない。戦後、立憲主義をはっきりさせたのが、民主党だ。そこは評価できる。
 法律は、国民の自由を制限して社会の秩序を維持するためのもの(→国民に対する歯止め)であるのに対して、憲法は国家権力を制限して国民の人権を保障するものだ(→国家に対する歯止め)。憲法と法律の制限する矢印の向きは、全く逆だ。私は、憲法と法律が全く違うことについて、東大法学部で憲法を学んでも、気が付かなかった。何年か後に自分で勉強してはじめて判った。私たち国民には、憲法を守る義務は、これっぽっちもない。99条の憲法尊重擁護義務が憲法の本質だ。そのことが明らかになっていない。これが憲法教育の現状だ。憲法ができてすぐに文部省が中学生の副読本として出した『新しい憲法のはなし』は、いい本だが、どうしようもない本でもある。憲法を最高法規だといい、統治機構、人権、平和について述べている。そして国民は憲法を守れといっている。立憲主義には全く触れていない。立憲主義について伝えるのは、これからだ。

*いつ少数派になるか判らない、想像力を働かせよう

 自分が20代後半まで憲法に無関心でいることができたのは、多数派の側に自分がいたからだ。日本人で、健康で、親に大学まで行かせてもらった。それだけで多数派、強者の側に立つ。そんな人間は、ふだん憲法を必要としていない。もし私が、車椅子が必要だったり、経済的理由で進学できなかったりしたら、違っていただろう。だから、憲法は難しい。貧困・格差の問題でも、多数の人は、派遣村はテレビの向こう側の世界のこととして、観ただろう。正社員、とりあえず生活できる人にとって、想像力を働かせないと、他人事に終わってしまう。多数派から、いつ自分が少数派になるか判らない。また人は多面性を持っている。強い面もあれば、弱い面もある。共感力を持って、相手の立場に立って考えることができるかどうかだ。
 個人のレベルでも、国際レベルでも共感力が必要だ。例えば北朝鮮は、やっていることを正当化できないが、なぜああいうことをやるのだろうか。地図を逆さにして見ると、北海道から沖縄まで日本列島が覆いかぶさっている。そこには、米軍基地がある。あちらの国から見たら、物事は違って見える。

*個人の尊重「すべて国民は個人として、尊重される」(13条前段)

 私は、憲法で一番大切な条文を選び出せと言われたら、13条前段を上げる。誰もがみな同じように大切だ。一人ひとりが幸せになるために国がある(個人主義)。どんな凶悪犯罪を犯した人であろうと、人として生きる価値を認められるべきだ。口で言うのは簡単だが、いざ自分の身内が被害にあったら…。敵の国の人の命や人権も大事だ。それを道具として扱うのは間違っている。それはどうでもいいというところから戦争は始まる。だから9条がある。戦争をしないと覚悟するなら、この点を納得しないといけない。
 同時に、一人ひとりがみな違う、違って当たり前だ。いい悪いではなく、個性、自分と違うものを認め合う。これが個人の尊重の根本にある考え方だ。例えば、世界の人口では、10人に1人が同性愛者だという。この会場の10人に1人が20代だというなら何ともないが、10人に1人が同性愛者だというと笑いが起こる。そうならない社会にすべきだ。違和感があっても、受止められるようにすべきだ。

*戦争の放棄、9条

 9条は極めて現実的な規定だ。一方で、理想だとも考えている。“テロとの闘い”などといっても、軍事力で守れるわけがない。日本は、海岸線が複雑に入り組んでいて、人口が密集している。ならば、テロの標的にならない、攻められない国にするしかない。軍事力に頼らなくて済む、軍事力以外の力、経済力、政治力、文化の力、理念の力などさまざまな力を付けなければならない。それがこの国の現実に合っている。戦争が起こったら、死ぬのは9割が市民(非戦闘員)だ。
 しかし9条は、自分の国を軍事力で守ろうとしないのだから、かなり非常識だ。非常識でいい。200年前のアメリカで、奴隷制反対を言ったら、非常識と非難されただろう。しかし今は、それが常識になっている。主張し続ける人がいるから、人類は進歩してきた。9条でいくと私たちは決意した。非常識の最先端をいくことを決意した。そういう国、人がいないと、人類は滅亡してしまう。50年後、100年後、これが日本の、世界の常識になるように進もう。9条は、現実に国民の生命財産を守っている。非常識であることを承知したうえで、あえて主張し続ける意味がある。そのためには、いろいろな力を身に付けなければいけない。

*憲法の力、憲法を知ってしまった者の責任

 どんなすばらしい憲法があっても、憲法の力は国民の力以上にはならない。この憲法をどう使いこなしていくかだ。これからいかに次の世代に立憲主義を、一人ひとりの人間の大切さを伝えていくかは、今を生きる人間の責任だ。60年前の日本に生まれていたら、また現在のイラクやアフガニスタンに生まれていたら、全く別の人生を歩むことになる。たまたまこの時代の日本に生まれて、憲法の一番いい時期を享受した人間として、一人ひとりが自分のできることを今すぐ始めよう。
 民主党政権になって、たとえ憲法審査会ができたとしても、すぐ憲法改正ということにはならないだろう。ただし、何かをきっかけに改正議論がわーっと沸き起こる危険性はある。民主党の中にはいろいろな考えの人がいる。主権者として監視が必要だ。
 憲法は理想だ。現実と食い違うが、そこに意味がある。だからこそ現実を理想に近づける意味がある。9条だけでなく、13条も25条も現実とかけ離れている。しかし、刑法の窃盗罪があっても泥棒はなくならないからといって、刑法の規定をなくそうなどという馬鹿なことにはならないのと同じだ。
 皆さんには、憲法を知ってしまった者の責任がある。家庭で、地域で、職場で憲法を話題にしてください。いろいろな意見があっていいので、相手の意見を変えようなどと思わないで話題にしよう。

(文責:大田たまがわ九条の会 若林 <要約の小見出しは、若林が付けた>)

 

 

―――――――――――――――――――――― 以下は開催前の案内です ――――――――――――――――――――――

地域九条の会 合同講演会

音楽と憲法の夕べ

107日(水)
区民プラザ 下丸子駅

 5つの地域の九条の会は共同して、音楽を楽しむとともに、<憲法九条を生かし、平和と暮らしを守る>講演会を開催することになりました。かつてない経済危機のなか、日本を「海外で戦争する国」にする改憲の動きが進められ、私たちの平和と暮らしがおびやかされています。今こそ、いかに憲法を「活かす」か、をともに考えましょう。
皆様、お誘いあわせのうえ、「音楽と憲法の夕べ」にご参加ください。

 

チラシ(表)はこちら

チラシ(裏)はこちら

 

<第1部> ミニコンサート

演奏曲

 モーツァルト ディヴェルティメント
 シューベルト セレナーデ
 
「かかし」「ずいずいずっころばし」など日本のメロディほか

演奏

アコルディ弦楽四重奏団

1st Violin

永井 みどり さん

2nd Violin

矢島 恭子  さん

Viola

高瀬 有美  さん

Cello

服部 善夫  さん

    メンバーによるトークを交えながらのコンサートは、
   たいへん親しみやすく、多くのファンの支持を得てい
   ます。

 

 

<第2部> 講 演 

今こそ活かそう!「憲法の力」

                                       ー今を生きる私たちの責任

講 師 : 伊藤 真 さん

伊藤 真 ( いとう まこと )
 1958年生まれ。法学館館長、伊藤塾塾長、弁護士。95年に「伊藤真の司法試験塾」(その後「伊藤塾」に改称)を開設、親身な講義と高い合格率で「カリスマ塾長」として人気を博す。「市民のために働く法律家養成」を目指す一方、「憲法の伝道師」として各種集会での講演活動も精力的にこなす。
 主な著書に『中高生のための憲法教室』『夢をかなえる勉強法』『なりたくない人のための裁判員入門』『憲法の力』などがある。

 

 

開催日

107日(水)

午後6時30分〜


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会場

大田区民プラザ 大ホール

多摩川線 下丸子より徒歩1分

参加費

前売券:700円
当日券:1000円

 

主 催:  池上九条の会 、大田たまがわ九条の会 、新蒲田九条の会 、東矢口九条の会
協 賛:  田園調布九条の会

<代表連絡先> 大田たまがわ九条の会・事務局 小林稔治 方 Tel:090-6109-6273 
Email:info_ota_tama9@yahoo.co.jp

 

 

各会の連絡先 チケットの購入などは下記へ

池上九条の会

肥後智恵子 方 Tel&Fax:3751-3615

大田たまがわ九条の会

小林稔治 方 Fax:3756-5238  Email:info_ota_tama9@yahoo.co.jp

新蒲田九条の会

多田鉄男 方 Tel&Fax:3738-8916

東矢口九条の会

伊藤栄二 方 Tel:3734-8589

田園調布九条の会

駒木根 方 Tel:3759-5521  Email:xexyoho1@yahoo.co.jp 
鳥居 方    Tel:3721-6484  Email:torichiz@dh.catv.ne.jp